日本式ビジネスマナー研修計 4 回
社会人になると様々なマナーが要求されます。もちろん、ビジネスはマナーだけですべてが決まるワケではありませんが、一方で、マナーがなっていないだけで相手のビジネスレベルや品格を疑い、付き合いや取引を躊躇する方がいるのも事実です。
そこで、今回から計 4 回にわたって日本式ビジネスマナーについて、私が知っている知識をみなさんにお伝えしたいと思います。
2016 年 6 月 15 日
みなさんは自分が座る席を気にしたことはありますか?「そういえば、この間行ったレストランの椅子は座り心地が良かったですよ。」などとのんきなことを言っている場合ではありません。私が聞いているのは座席自体のことではなく、席順、つまり、誰がどの席に座るかということです。もちろん、普段友人知人と座る場合はあまり気にする必要はありませんが、ビジネスにおいてはこれも一つの大事なマナーですし、プライベートにも応用できるため、マナーの基本中の基本といえるかもしれません。
上座と下座とは?
では本題です。まずは、「上座」と「下座」、この 2 つの漢字は何と読むかわかりますか?
答えは、「かみざ」(上座)と「しもざ」(下座)です。三省堂の大辞林によると、上座:地位の高い人や客が座る座席。
下座:目下の者が座る座席。
簡単にいえば、自分とお客様と 2 人きりだったら、お客様に上座に座っていただき、自分は下座に座ります。そして、恋人や旦那さん、あるいは奥さんと2人きりだったら…2 人の座る位置で力関係がわかるかもしれません(笑)。
それでは、上座と下座の意味を理解したところで、実際の場面を想定しながら演習してみましょう。(図 1-1 参照)
図 1-1
今回の登場人物は 4 人です。田中金属株式会社の田中社長と高橋係長、それに、株式会社伊藤商事の佐藤部長と鈴木課長です。今回は、伊藤商事の 2 人が取引先の田中金属に、お客様として訪問したという設定です。
さて、田中社長、高橋係長、佐藤部長、鈴木課長の 4 人は、それぞれどの席に座るのが適切でしょうか?
答え:A 席は高橋係長、B 席は田中社長、C 席は佐藤部長、D 席は鈴木課長
ここでまずポイントとなるのは、どこが上座でどこが下座かということです。上座から下座へ向かって順に書くと次のとおりとなります。
C→D→B→A
つまり、C が上座で、A が下座ということになります。
では、なぜ C が上座なのでしょうか?その理由は、一番安全かつリラックスできる場所だからです。C 席は出入口から一番離れており、たとえば、暴漢が入ってきて襲ってきた場合、一番最初に危害を加えられる可能性があるのは A 席に座っている人です。また、A の席は出入口に近く、人の出入りが多くて落ち着かない場所でもあります。
では、次のケースはどうでしょうか?
今度は席ではなくテーブルで分けました。
果たして、どのテーブルが上座及び下座でしょうか?(図 1-2 参照)
図 1-2
答えは次のとおりです。同様に上座から下座にかけて順番に記載します。
答え:H→C→G→D→F→B→E→A
正直この答えには私も確信がありませんが、いずれにせよ、上座は H か C で、下座は Aか E であればだいたい正解だと思います。後は読者のそれぞれの判断に委ねます。
ところで、上記のような座席の上座と下座のマナーに関しては、あくまでも基本であって、実際のビジネスシーンにおいては柔軟な対応を求められる場合が多くあります。また、会議室の場合であれば、プロジェクターやモニター、ホワイトボードの位置、それに、席数や人数の関係などで、上記のように真面目に座る方が逆にマナー違反の場合もあります。たとえば、片側 3 人ずつ、計 6 人座ることができるテーブルに 2 人で座った場合、わざわざ奥の 2 席に座らずにお互いに真ん中の席に座ってテーブルを広く使った方がリラックスできます。また、相手方の最上位者が真ん中の席に座った場合は、こちら側の最上位者も真ん中の席に座るのが自然です。
マナーはあくまでも相手を不快にさせないためのものですので、マナーだからと真面目に守って相手を不快にさせたら本末転倒です。いわば、相手を不快にさせないことが、究極のマナーといえます。
それでは、もう一つよくあるケースとして、車の上座と下座についても考えましょう。左上が運転席ですが、いったいどれが上座でしょうか?(図 1-3 参照)
図 1-3
先程の田中金属の田中社長と高橋係長、伊藤商事の佐藤部長と鈴木課長にもう一度登場してもらいましょう。ケーススタディーとして、この 4 人で第一工場で打ち合わせした後、田中金属の社用車に乗って第二工場へ移動する場合を想定します。では、どこに誰が座るのが適切でしょうか?
答え:D 席は佐藤部長、C 席は鈴木課長、B 席は田中社長、A 席は高橋係長
つまり、上座は運転席の後ろの D 席で、下座は運転席ということになります。運転席が下座というのは比較的理解しやすいかと思いますが、ではなぜ助手席の後ろの C 席ではなく、運転席の後ろの D 席が上座なのでしょうか?
これも、やはり安全というのがキーワードです。
つまり、万が一車に何かが起こった場合、たとえば、対向車線の車とぶつかりそうになって急なハンドル操作をした場合、運転手も人間ですので、反射的に自分の身を守ろうとします。このため、運転席と反対側の助手席が危険にさらされる可能性が一番高く、よって、後部座席においても助手席の後ろの C 席の方が、運転席の後ろの D 席より危険にさらされる可能性が高まります。よって、D 席が上座ということになります。
なお、この場合もお客様である佐藤部長と鈴木課長が後ろに座るというのが基本的なマナーですが、たとえば、両社の最上位である佐藤部長と田中社長が移動中に会話しやすいようにこの 2 人が後部座席に座るということも十分考えられます。これも、基本的なマナーを理解したうえで柔軟に対応しましょう。
一言で席順といってもパターンが無数にあるため、今回は 3 つだけを取り上げました。気になる方は本や検索サイトなどによりご自身で調べて下さい。
次回は名刺の受け渡し方についてお伝えします。
※上記はあくまで著者の私見に基づいて書かれており、実際の運用にあたっては読者の判断によってご活用ください。あくまで、相手を不快にさせないことが一番重要です。